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2008年 07月 07日

日本一元気な村

出典:リクルート 「R25」 (http://r25.jp/)

空は、今日も、青いか?
 石田衣良=文


第八十二回  日本一元気な村 
(http://r25.jp/magazine/sora/1252008063001.html)

賞をもらってしまった。

それもかなりうれしい賞である。
ちなみに小説以外でいただくのは、中学校以来なのだ。その名も栄誉ある
ベスト・ファーザーイエローリボン賞(学術・文化部門)である。まあ、
選考委員がうちの家庭のなかまで見学にきて、賞を与えるというわけではないので、
実際にどれほどぼくがいい父親なのかは不確かだけど、それでもやっぱりうれしいものだ。
いやあ、ほんとに子育てって、たいへんなんですから。

ぼく以外の受賞者は錚々たる顔ぶれだった。俳優の仲村トオルさん、
アーチェリーの銀メダリスト・山本博さん、JR東日本社長・清野智さん。そして、
最高齢の御年73歳、長野県下條村長・伊藤喜平さん。最後の伊藤村長のお名前を、
ぼくは寡聞にして存じあげなかった。それに70すぎのベストファーザーって、
いったいどういう意味なのか。まだ幼い子どもでもいるのだろうか。最初はそんなふうに
不思議に思っていたのだ。

だが、ステージのうえで紹介された伊藤村長の仕事ぶりをきいて、ぼくは感動したのだ。
その場でつぎのR25のコラムはこれしかないと決心したくらいである。下條村は長野県南部に
あるちいさな村だ。目だった地場産業も、有名な観光地もないごく普通の過疎の村だったので
ある。伊藤村長が92年にトップに就任するまでは。

それからの16年間の村長の業績は素晴らしいのひと言に尽きる。目標は人を増やす、
子どもを増やすという現代日本では究極の難題だ。その第一歩として、村は10年以上もまえに
「若者定住促進住宅」を建て始めた。2LDKで駐車場が2台分ついて、家賃は割安な月3万6000円。
入居条件は子どもがいるか、結婚の予定があるカップルで、村の行事や消防団への参加も
入居条件である。この住宅がおおあたりして、今では124世帯が暮らす。

さらに下條村では、4年もまえから中学生までの医療費は、すべて無料である。保育料も
2割引き下げた。これらの政策には当然コストがかかる。その分を伊藤村長は財政のムダを
はぶくことでのり切ったという。村役場の職員を民間企業で研修させ、仕事のスピードとコストを
徹底的に意識させたのだ。60人近くいた人員は、半分近い34人に削減。これは現在なら王道的な
行政改革手法にきこえるだろうが、バブルの余熱が残り補助金漬けがあたりまえだった90年代には、
正気の沙汰ではないといわれたのである。

その結果どうなったか。3800人だった人口は、1割以上増加して4200人へ、おおきく飛躍した。
出生率は全国平均の1.32人を軽々とうわまわる2.04人で、長野県ではナンバーワンである。
村立の保育園には150人以上の子どもたちがあふれ、建物は3度の増築を重ねたという。素晴らしい
話じゃないか。

少子化はずいぶん以前から、日本の大問題になっている。だが、どうして下條村で実現できたことが、
日本全国でできないのだろうか。霞が関の役人も、永田町の政治家も、伊藤村長に頭をさげて
話をききにいけばいいのだ。

このところ後期高齢者医療制度が話題になっているけれど、老人につかわれる医療費の巨額さに
くらべて、日本では子どもたちへの予算は微々たるものだ。人口が減っていくこの国で、
過疎の地方にバンバン道路をつくるなどというのは、愚かさの極みだ。日本の未来のためにも、
子どもたちと若い親のための予算をもっと増やすべきである。その予算はきっと将来何倍にも
なって返ってくるだろう。たくさんの子どもたちが駆けまわる景色が日本中で見られたなら、
たとえベストファーザーでなくたって誰もが心があたたまることだろう。


Profile
いしだ・いら
1960年東京生まれ。成蹊大学卒業。
著作に『池袋ウエストゲートパーク』(文藝春秋、オール讀物推理小説新人賞受賞)
『4TEEN─フォーティーン』(新潮社、第129回直木賞受賞)
『空は、今日も、青いか?』(日本経済新聞社)など。
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by egoist110 | 2008-07-07 21:12 | 地方自治全般